秋の夜長の読書は?

秋の夜長に読書は如何!
『お下髪(おさげ)の小僧』
文:サトウ・ハチロー
絵:松本かつぢ
『少女の友』昭和22年1月号より


少女の友


11)『いらっしゃーい』と、声をはりあげたらお客さんがピヨンと飛び上がった。腕に下げた買物かごの瓶が一緒にとび上がった。『何を差し上げます』と、顔を眺めたら、目をパチパチさせている。びっくりしているのだ。アタシの声はよっぽど大きかったらしい。『どうも、あひすみません』奥から伯母さんが出て来て、お客さんにあやまった。『いいえ、あのオ、ラッキョを五十匁ばかり』『ヘーイ、ラッキョを五十匁』と、アタシが叫んだら、伯母さんがじろりと眼鏡越しに、にらんだ。又、お説教だな。アタシは覚悟した。叔母さんと来たひには、箸のあげ下ろしまであたしに小言をいふ。伯母さんの小言はお母さんのと違ってしずかだから、痛くもかゆくもないけれど、長いのでへいこうだ。『あなたは、それだからいけないのです』に始まって、『これからお気をつけなさいよ』とむすぶまでに、早くて三十分かかる、おそい時は、二時間を突破する。小言の長時間レコードを作らうと思っているのかもしれない。『らっきょ』のおきゃくさんが帰るとすぐに紅ショウガのお客さんがきた。竹の皮へ紅ショウガを包んでいると、海苔を二帖と学生さんが来た、二人に渡してしまうと、桜えびを一袋が来て、いかの塩辛が来た。塩辛がノコノコ店へ来たわけじゃない、塩辛を買いに来たのだ。伯母さんは,お客が次から次へと,ひっきりなしにくるのでアタシに小言をいふチャンスがない。いいあんばいだ。アタシだって何も、伯母さんの小言長時間記録を助成するためにここへ来ているんじゃない、いろいろな事情で、しかたがなくここ伯母さんの店さくら屋食料品店の小店員をつとめているのだ。学校を卒業したから来たんじゃない。学校は、まだ行っているんだ。六年生だ。だから、ここから学校へ通っているんだ。アタシと弟が、ここから学校へ通っているんだ。アタシと弟が、ここへ来たわけから説明しないと、一寸どなたにも、わからないだろう。ことの始まりは、おせんたくしたのがよくなかった。その前にいろいろとあるのだか、とにかくおせんたくをしたのが、伯母さん家行きを命ぜられた最大の理由だ。
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お下髪をゆった、お転婆な女の子の奮闘記、、さてつづきはどうなることやら、、、

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