チント君(文・松本かつぢ)

チント君

昭和22年『ひまわり』6月号の掲載。
(古いスケッチ・ブックより)
チント君が、雪の山形から,僕の家に奉公に来たのは一五の春だった。
名はすみ子と言ったが、家の物はみなチント君と呼んだ。
愛嬌のある、凡そちんまりと、チントまとまった感じの子だったもので。
何を言いつけても気持ちのいい位い、テキパキとよく用事をした。
この子が来てから、家の中が急に暖かく、明るくなったようなような感じだった。
丸六年居て今度の戦争に入ってから、出生した兄の替わりをするべく暇を取って帰って行った。
離れてからも、何かにつけて、よく便りをくれた。
そのチント君が、思いがけなくも、何年かぶりで、去年の暮れ、ひょっこりとやって来た。
お嫁に行くので、お別れに来たと、お米だの、お餅だの、アズキだのをあきれる程どっさり背負って。
何日か居ての帰り際、辞退するのを無理に、何枚かのお札を手渡したのだが、しばらくして手紙がきた。
『・・・・あの場合、受け取らないでは、返ってご気分をそこねると思いましたので、
一度頂きはしましたが、それでは、チント、お土産でなくなります。
勝手に開けてわるうございましたが、タンスの一番下のひきだしの、着物の間に、頂いたお金は入れておきました。
どうかお納め下さいませ・・・・』
終わりまで読まないうちに、嬉しくて嬉しくて、ぽろぽろ泣いてしまった僕だった。
かつぢ文

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